Interview vol.2

『エゴであっていい。それは重要であり象徴的な言葉だから』

■前回はかしぶちさんの高校時代のお話をうかがったので、今回はかしぶちさんの高校卒業後の歩みと、モルダウ・ディスクのお話を中心にお聞きしたいと思います。

「親父が建築家だったので、美大の建築科をねらったんだけど、浪人してね。それで渋谷で弾き語りのアルバイトを始めまして。だめだよね、そんなの(笑)」

■弾き語りのバイトを始めた理由というのは?

「その頃、手軽にすぐできるバイトっていうと喫茶店の皿洗いぐらいなもので。だったら特技をいかしてギターを弾いて歌うほうが楽しいかなと思って」

■どういうお店で弾き語りをしていたんですか?

「渋谷のお店(「青い森」)だったんですけど、みんなが飲んだり食べたりしているところの隅っこで弾いてるっていう。今で言うところの、ホテルのバーやラウンジとかで歌ったりするスタイルに近いですね。で、そういう場所だから、自分のオリジナルをやってもお客さんには当然分からないわけ。だからみんなが知ってるポピュラーソングをやらなくちゃいけなくて、僕はビートルズばっかり。でもそれもまた煮詰まるもんでね。それである日、支配人に黙って自分の曲を歌ったの。そしたら説教くらって、すぐクビになっちゃいました(笑)」

■『今日は雨の日です』や『つくり話』を聴いて、既にこの頃からかしぶちさんの世界観が確立されていたことに驚いたんですけど。

「そうですか。自分で聴いても、その辺は面白いかな、と思いましたね」

■かしぶちさんがそうやって弾き語りをしていた頃というのは政治的メッセージを歌に込めるタイプのシンガーソングライターがたくさん出現した時期だと思うのですが、かしぶちさんはあくまでも個人的世界観を歌にされていますよね。

「当時、そういった弾き語り的なものだとボブ・ディランに代表される、言葉で直接的に政治批判をするシンガーもいたし、逆にドノヴァンみたいにメロディーを重視した、ちょっと斜に構えたシュールな部分を持ったシンガーもいましたよね。だからどっちかっていうと、サウンド重視の僕はドノヴァン派だったのかもしれない。社会派というよりはシュール派(笑)。ストレートじゃないんですよね、ようするに(笑)」

■その後かしぶちさんはプロのミュージシャンとしての道を歩んでいくわけですが、ここにきて、アマチュア時代の音源をモルダウ・ディスクで作品化していくことにしたのはどういう理由からですか?

「こういうものをいつか発表するっていう発想は、ずっと頭にあったんですね。でも作品の性質上から、それを発表するとしたら、自分のレーベルからでしかありえないことだと思っていたんです。そういう形で制作を始めて、レーベルを大きくしていって、新作なんかも作れるようなレベルにアップしていけたらいいかなって」

■それが、レーベル・カラーとして手作り感を大事にしている理由なわけですね。

「モルダウ・ディスクの性格上、最初からバーンて派手に打ち出すんじゃなくて、徐々にやっていけばいいわけですよ。それで徐々に浸透できればいいかなって。だから『今日は雨の日です』を出した時、これは単発で終わりじゃないんだっていうことを示すために"アーカイブスvol.1"って表記を入れたわけです。『今日は雨の日です』についてもう少し詳しく言うと、2002年9月28日に代官山クラシックスでライヴをやった時に200枚限定で作ったんです。そうしたら会場と通販である程度、枚数がはけて、すぐに売り切れちゃったんです。その後、再プレスしましたが、今はソールド・アウトなんです」

■で、それに続いてアーカイブスvol.2が登場するかと思いきや、かしぶちさんがモルダウ・ディスクの第2弾作品として企画したのは、1997年から2002年までのソロ・ライヴの音源をまとめた『LIVE EGOCENTRIQUE』だったわけですが。

「実は『今日は雨の日です』と『LIVE EGOCENTRIQUE』って、違うようでつながっているんですよね。古い音源とライヴ音源が私の家にいっぱいあるわけですよ。(ソロ・ライヴは)もう 30回ぐらいやってるから、現場でライン録りしたテープが30本ぐらいたまってきたわけ。なのでライヴ音源のほうもまとめておくのも自分の仕事じゃないかと。自分がやらないと誰がやってくれるんだってことですよね(笑)」

■ということは、収録されているのは、いずれライヴ・アルバムを作ろうと思って録音した音源ではないと。

「だから(アーカイブス・シリーズと同じで)後から考えたのね。当初から考えていればプロトゥールスとか機材を入れてキチッと録音するじゃないですか?後での発想だから、(録音した音源は2Chで固定されているから)直しがきかない。試聴していて、ヒヤヒヤもんでしたよ(笑)」

■選曲はどういう意図のもとに?

「初のライヴ盤ですよね。だから代表曲と、あまりみなさんが聴いてない曲(他のアーティストに提供した曲など)と、カヴァー。その三要素で構成するのが、バラエティに富んでいて美しいかなって。だからマスタリングは苦労しましたよね。音源(収録場所の音質)が全部違うからね。A-DAT、8Chぐらいで録っておけばこんな苦労もなかったんでしょうけど」

■それだけ苦労してまとめただけのことはある内容になったわけですね。

「そうですね。これも自分のレーベルならではの仕事だと思うんで、やっといてよかったなと思います」

■タイトルに使用されている"EGOCENTRIQUE"(エゴサントリーク)って、どういう意味なんですか?

「フランス語なんですけど、"自己中心的"っていう。ようするにエゴイスティックな音の塊ってことですね。ソロ・ライヴ自体、ほとんど自分一人(時にサポート・ミュージシャンを加えた形もありますが)でやってるわけだし、エゴであっていい。それは重要であり象徴的な言葉だから」