「夢の人」

時刻はすでに深い眠りの中。
突如、巨大な本がフワフワと額の上に舞い降りてきた。
それは重たすぎる銀色の書物。
無数に書かれた文字を繋げる言葉の群れ。
何年かかっても考えつかないフレーズの羅列。イメージの宝庫。
この本さえあれば、そこそこの作家になれる。
いくつもの物語を生み出すことが出来るだろう。

すぐさま飛び起きて机に向かおうとしたが、身体が動かない。
またしても、夢のしわざだ。
この閃きはペン先にも届かない。何も記せないマーブル柄の夜。
目を覚ませば、忽ち思索の海も干上がっていくだろう。

夢はいつもおぼろげな映像で、狂気に満ちたあやふやな旋律。
すっかり汗ばんだ夢たちよ、もう夜明けの空だ。
私は追いかけない。ゆっくり寝返りを打って、アクビをする。