Interview vol.3

『モルダウ・デイスクは独創性を求める自由なレーベルだからね。詩集や映像なども発表したいと思っている』

■かしぶちさんは『LIVE EGOCENTRIQUE』に続くモルダウ・ディスクの作品として『つくり話』を発表されましたが、アーカイブス・シリーズの第2弾に当たるこの『つくり話』は、どのような意図のもとに選曲を行なったのですか?

「前作では『今日が雨の日です』が代表曲だったように、今回自分の中では『つくり話』が当時を振り返るともう一つの代表曲だったわけです。録音もラジオ栃木のスタジオだから、音質も良い。これがトップ(1曲目)にふさわしいなと思って。他の曲は自分の中でも珍しいテイクって感じですね。『僕は死んだ』『ハバロフスク〜美しき来訪〜』『昼下がりのバラード』は全部一人で多重録音しているものなんです。こうして見ると、あんまり明るい曲ないんですね(笑)。『マーシャス号』は弟と二人で演奏した。これ、冒険活劇もので面白い曲ですよ」

■そう、児童冒険小説風な内容の詞ですね。

「少年漂流記みたいだね。実際、ボーイスカウトに入っていたから(笑)。中学の頃、よく友達とキャンプに行ってた。主人公は少年のはずなんだけど、船にお酒を積み込むシーンも(笑)。4曲目は『ハバロフスクを訪ねて』この時点ではもちろん詞なんかついていない。それも当然で、そもそもインストの曲でしたから。これが後にムーンライダーズで演奏することになるんですね」

■この頃作った曲を後にムーンライダーズのアルバムに提供することにしたのはどういう理由からですか?

「歳を重ねていくことによって曲が増えていくじゃないですか。そういったストックの中から、ムーンライダーズのアルバムにふさわしい楽曲があれば、そっから引っ張り出すってことはありますよね。だから楽曲を提供する時には、例えばスケッチだけを取り出して、新たに手を加えたり。この中にも、アイドルの原型になった曲もあるし」

■それはどの曲ですか?

「『つくり話』は後に(プロになってから)アグネスに提供しましたね。歌詞なんかも違いますけど。曲も多少変化している。アグネスの方はメロディがもっと複雑に絡んでくる感じです。録音時にアレンジして手を加えましたからね。『ハバロフスク〜美しき来訪〜』が『ハバロフスクを訪ねて』の原型だとしたら、こっちはアグネスに提供した曲の原型なんです」

■かしぶちさんにとっては、核となるアイデアに、その時々でふさわしい衣装を着せたという感じですか?

「その通り、そういうことですね。だから今の僕がこれらをリメイクしても面白いかも知れません」

■この頃の曲を今聴き返してみて新たな発見はありましたか?

「メロディがコード進行などにとらわれていないので自由な感じですよね。予想のたたない展開がある。今はキーボードの前に座って"曲を作るぞ"って構えたりするけど、この頃は自転車に乗って作ってましたから(笑)。発想が新鮮であるとか、楽典にとらわれないとか。平気で転調するしちゃうしね。時代とツールが違うのは当然だけど当時の曲作りは何かユニーク。ビートルズの影響もあると思う」

■『今日は雨の日です』と『つくり話』はジャケットでのアートワークの雰囲気が統一されていますが、これもかしぶちさんの意向によるものですか?

「はい、僕の方からデザイナーさんにシリーズなので雰囲気を変えてくれるなと。モルダウとしてシリーズ化を意識しました。曲名は当時の手文字をそのまま使っているし、イラストも60年代、当時描いたやつですしね、こだわるでしょ(笑)」

■こうして作品を3枚出してみて、かしぶちさんはモルダウ・ディスクにどのような感想を抱いていますか?

「これまでのモルダウは"アーカイブス・シリーズ"や"ライブ盤"など、過去の音源をCD化するレーベルというイメージが強かったけど、今後は、新作やコラボ的な作品等も企画して行く予定です。少しずつ間口を広げてね。勿論"アーカイブス・シリーズ"はこれからも続けていくつもり。音源、まだ沢山あるしね(笑)」

■これからもマイペースで活動が続いていくわけですね。

「これはもう、当然かな。モルダウ・デイスクは独創性を求める自由なレーベルだからね。詩集や映像なども発表したいと思っている」